僕の友達に、福島くんという男がいる。ドラムが叩けて、ベースが弾けて、音楽への愛情と知識は無尽蔵で、ユーモアに溢れていて、パソコンのスペシャリストで、酒も強くて、誰よりも心やさしい。
彼とはヤフーオークション(矢野顕子のライヴ・チケットに関するやり取り)で知り合った。家が近所だということで、ビールを呑むことになり、僕はキンクスTシャツを着て待ち合わせ場所に立っていた。福島くんはすぐに僕のことを見つけて、声をかけてくれた。僕らは居酒屋の暖簾をくぐり、ビールで乾杯し、キンクスのビデオとヤング・ラスカルズのカセットを交換し、終電近くまで呑み続けた。もう8年とか9年とか、それくらい前のことだったりする。で、今も僕らは、友達だったりする。
一昨日の夜、パソコンが壊れた。僕はすがる気持ちで福島くんに連絡をとった。彼は電話越しに的確なアドバイスをくれて、見事、僕のパソコンを復活させた。でも、それはまだ完璧じゃなかった。さらに、無学な僕がやらんでもいいことをしたもんだから、事態はさらに悪化。あろうことか、ハードディスクの接続ピンを折ってしまった。どうすることもできなくなり、翌朝、福島くんにそのことを報告すると、その夜遅く、彼はドライバーとペンチとクリップを持って、僕のところにやって来た。
「なんか音楽でもかけようよ」。そう福島くんは言うと、クリップをペンチで曲げたり、切ったりし始めた。なんでも、折れたピン部分にそれをかますのだという。「電気さえ通ればどうにかなると思うんだよね」とのこと。パソコンの修理にしては、随分と昭和家電的な発想だなぁと思ったけれど、これまでの経験から、僕は彼の天才を信じた。
で、なおちゃったんだよね。クリップかましただけで。これが。
僕は猛烈に感動した。その自由な発想に。そして、かけつけてくれた心のやさしさに。パソコンの完全復活が確認されると、僕らはローリング・ストーンズの“Start Me Up”と、サウスサイド・ジョニーのファーストをかけた。そして、がっちりと握手をした。「楽しかったよ。それじゃね」。福島くんはそう言うと、車でバグルスのCDを聴きながら帰って行った。時計は午前2時を過ぎていた。
今朝も、僕のパソコンは、福島くんがかましてくれたクリップを通して、順調に動いている。もし福島くんが来てくれなかったら、僕は本当にたくさんの場面で、非常にめんどくさいことになっていたことだろう。そんな僕のハードディスクには「サウスサイド」という名前がついている。そして、「念のために…」と福島くんが繋いでいってくれた予備のハードディスクには、「スタート・ミー・アップ」という名前がついてたりする。
You can start me up, I'll never stop. 僕らは音楽が、とても好きだ。
MIYAI