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Sandfish Records Diary

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ロックン・ロール「ダメ男」

ロックン・ロールを聴いて、
自由は素晴らしいと思った。
ジャニス・ジョプリンが
自由とはなにも持たないものだと教えてくれた。
その言葉は呪縛のように僕を縛った。
でも、レコードはどんどん増えていった。

ジミー・ペイジはギターが上手いと言われ、
僕はその言葉を鵜呑みにした。
音楽の前だと、赤子のように無垢で素直だった。
いつしか、そんな純粋さを心の拠り所にするようになった。

クリント・イーストウッドの映画を見て、
無口で皮肉屋の男がかっこいいと思った。
僕は黙りこくり、唇のはしを曲げて、毎日を過ごした。
女の子にもてると思ったら、
気がつけば、まともに口がきけなくなっていた。

男子校に通うようになると、さらに磨きがかかった。
ある日、一番言いたいことってなかなか言えないよねと友達が言った。
一番好きな女の子とはつきあったことがないと別の友達が言った。
でも、僕はいつも5番目くらいに言いたいことしか言えず、
自分を好いてくれる女の子なら誰でもいいと思っていた。

お酒を飲むと、気持ちがよくなることを知ってから、
夜な夜なバーへ通うようになった。
いい音楽が流れる店には、僕と似たようなマスターがいて、
僕と似たような人達が集まっていた。
美味しいビールや臭いお酒を飲むと、
僕は楽しくなり、気が大きくなり、笑っていられた。
でも、どんなに騒いだところで、
最後は、ひとりで真っ暗な部屋の電気をつけることになった。
ジャクソン・ブラウンのレコードをターンテーブルにのせ、
『タクシー・ドライバー』のワン・シーンを思い浮かべながら、
「レイト・フォー・ザ・スカイ」を口ずさむことになった。
レコードをかけないと、
僕の部屋は、いつもとても静かだった。

はじめてロックン・ロールに心奪われた日から、
もう随分と時間がたった気がする。
かつて胸に抱いていた夢や希望は、歳と共にすり減り、
そのうちのいくつかに、僕はケリをつけることになった。
でも、ケリがつかないこともある。
音楽が流れ、あの純粋な感覚が蘇ってくると、
ケリなんかつけられない。
例えなにもできずに佇んでいるだけだとしても。

ロックン・ロールに心奪われた僕らは、いってみれば、
消えそうで消えない、風に揺れるロウソクの灯みたいなものだ。
命と誇りをかけた音楽の灯火だ。
つきつけてきたノーの数だけ、
僕らは隅へと追いやられてきたのかもしれない。
でも、それはそれで、悪いことじゃない。
代償は支払われるものなのだから。

今夜もレコードに針をおろそう。好きな歌を聴こう。
ビートルズを。ストーンズを。スプリングスティーンを。
例えなにが変わるわけではないとしても、
いつか安らぎが訪れると、自分に言い聞かせるために。
安心して明日を迎えられるように。
期待することはとうの昔にやめた。
でも、信じることをやめたことはない。
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by sandfish2007 | 2009-11-02 14:31 | diary | Comments(0)
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