どうってことないよ、ミスター
君の世界がすべて崩れ落ちようが
音ひとつしないさ
そして、あの太った連中は、それを滑稽に思うだけだ
これから僕は町へ行き、あぶく銭をさがす
僕は38口径のスミス&ウェッソンを持っている
腹の中は煮えくり返っている
そして、僕には約束がある
向こう岸で、あのまぶしいほどに明るい場所で
人と会う約束がある
これから僕は町へ行き、あぶく銭をさがす
この歌の主人公は、今まさに足を踏み外そうとしている。拳銃を持って悪銭を稼ぎにいこうというのだから、おそらくまともな仕事じゃないだろう。男は職を失ったのかもしれない。日々の生活も苦しい。だからといって、彼が怠けて生きてきたとは限らない。「なにか」が彼の人生に起きたのだ。そして、それは避けられない種類のものだった。
以来、まともに生きたくても、それが許されなくなってしまった。でも、太った奴らはそんな彼の人生など気にとめない。手を差し伸べようとはしない。だから、彼は一線を超える決心をしたのだ。
重たいバスドラムの音が、男の背中を押す。フィドルが、男の最後の力を絞り出そうとする。ブルース・スプリングスティーン『レッキング・ボール』の2曲目“Easy Money”はそんな歌だ。テーマは、誰が彼を追いつめたのか。そして、誰もがいつ「彼」になるかわからないということ。だから、足を踏み外さないよう慎重にならないと。でも、腹の中は煮えくり返ったままだ。
MIYAI