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Sandfish Records Diary

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Jack of All Trades

 お前の芝を刈ってあげるよ
 排水溝にたまった落ち葉もきれいにするよ
 雨漏りしないように、屋根の修理もするよ
 神が与えてくれる仕事はなんでもやる
 俺は何でも屋
 ダーリン、うまくやっていけるよ 

 ブルース・スプリングスティーン『レッキング・ボール』の4曲目“Jack of All Trades”は、美しい歌だ。ピアノが全体のトーンを支配し、ホーンが寂しげな音色で響く。スプリングスティーンのヴォーカルは、過酷な現実を受け入れると決めた男の静かな決意と諦観を滲ませる。なにが彼にそう思わせたのか?それは人間がくり返してきた業の歴史だ。
 
 銀行家はますます太り
 労働者は痩せていくばかり
 それは前にも起こったことだし、これからも起こること
 また同じことが起こる ああ、奴らはそう確信してる
 俺は何でも屋
 ダーリン、うまくやっていけるよ

 アメリカの不況も、日本の地震と津波も、歴史を紐解けば、これまでに幾度となくくり返されてきたことがわかる。そして、それは原発事故とて同じことだ。このままつづければ、いつかまた起こるだろう。それでも僕らは生きていくしかない。タイトルである「jack of all trades」というフレーズは、通常だとすぐ後に「and master of none」とつづく。多芸は無芸、器用貧乏、といった意味のことわざで、男は自分のことをそう称しているのだ。生きるためになんだってやるよ。なんだってできるよ…と。そして、傷ついた心を癒しながら、生きていくための希望を見いだそうとしている。

 青空が割れたとき
 ハリケーンが吹き、激しい雨を降らせた
 これからは世界が変わる気がする
 イエスの教えのように
 みんなでお互いを支え合うようになるかもしれない
 俺は何でも屋
 ダーリン、うまくやっていけるよ

 しかし、封印された怒りが消えることはない。「もし俺に銃があったなら」と男は歌う。「俺はあの酷い奴らを見つけだし、その場で撃ち殺すだろう」と。その押さえた感情は、曲の最後に用意されたトム・モレロの素晴らしいエレクトリック・ギター・ソロによって解放される。けれど、それは多くの人の涙を思わせる。流すことさえできずにいる涙を思わせる。

 MIYAI
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by sandfish2007 | 2012-03-28 07:40 | diary | Comments(2)
Commented by 法律屋さんFromおおさか at 2012-03-28 18:47 x
Rocky Grand~Land Of H&Dの流れが後半のハイライトなら、前半のハイライトはずばりこの曲だと、個人的に思ってます。
震災で傷付いた日本をこの曲で元気にして欲しい‥。もしも、来日公演実現の際には、絶対セットから外して欲しくない1曲です。

でも、昔からのブルースのファンで、アメリカ金融業界に勤めているバンカーの人達は今回のブルースのアルバムをどんな思いで聴いているのでしょうかね‥。
悪の象徴みたいに槍玉に挙げられてるわけですから‥。

Commented by sandfish2007 at 2012-03-28 20:56
◇法律屋さんFromおおさかさん
確かに前半で強い印象を残す曲ですよね。メロディもトーンも悲しく美しい。今回は日本でもこれまでになく熱心な声が聞こえてくるし、ひょっとすると…と期待しちゃいます。ネックはさらに大所帯になったバンドかなぁ。

銀行家と銀行に勤めている人達は違うのでしょう。東京電力とそこで雇われている人達が違うように。

MIYAI
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