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Sandfish Records Diary

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You've Got It

 それを見つけた者は誰もいないし
 それを教えてくれた学校もない
 それを作った者は誰もいないし
 それを買った者もいない
 でも、ベイビー、君にはそれがある
 君にはそれがある
 さぁ、そいつを僕にも分けてくれないか

 誰もそれを壊すことはできない
 誰もそれを盗むことはできない
 誰もそれを真似することはできない 
 それを知るには、それを感じるしかない

 ブルース・スプリングスティーン『レッキング・ボール』の8曲目“You've Got It”は、存在についての歌だ。僕らは僕らなりの何かをもって生きている。しかし、日々の生活の中で、そのことに気づくのはなかなか難しい。ましてや、なにをやってもうまくいかず、為す術もなく、八方塞がりな状況であれば、尚更だ。ひどい不況で何ヶ月も仕事が見つからない。貯金は底をつき、家族を食べさせることもできない。漁に出ても、野菜を作っても、放射能のせいで出荷できない。廃棄を余儀なくされ、赤字はふくれあがるばかり。この国では、震災と原発事故によって、自信と尊厳を決定的に損われた人達が数多くいる。同時に、僕のように、以前と変わらない生活を送っている者もいる。

 人はそれぞれに立場が違うし、考え方も違う。価値観も、生きる信条も違う。わかり合うのは、けっして簡単なことじゃない。でも、この世界はそんな僕らで成り立っている。世界は一部の人間だけのものじゃないし、僕らにだって僕らなりの存在価値がきっとあるはずなのだ。この歌の主人公は、そのことを歌っている。大切な人が失いかけている自信と尊厳を回復させようとしている。君の代わりなど誰もいないのだと。例え形あるものが消えてなくなったとしても、君が無事ならそれでいい。君がここにいて、君にとっての大切な何かを失っていないのなら、大丈夫だ。だって、それは誰が壊すことも、盗むことも、真似することもできないものなのだから。

 曲は淡々と進行し、束の間の休息を思わせる。心のガードをおろしたときの、不意に口をついて出た本音のように。シンプルで、他に何も加える必要がないくらい無防備で、本質をついていて、相手への親しみと思いやりがじんわりと伝わってくる。「you've got it」の「it」は、こういった場合、性的な魅力を意味することが多いそうだ。おそらくスプリングスティーンは、わざとそうしたくだけた表現を使ったのだろう。心は開かれた。アルバムは救済の物語へと進んでいく。

 MIYAI
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by sandfish2007 | 2012-04-01 06:06 | diary | Comments(0)
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