ブルース・スプリングスティーンの新作『レッキング・ボール』は、9曲目の“Rocky Ground”から本当のクライマックスを迎える。サンプリングされた古い黒人教会の録音に導かれ、コーラス隊のミッシェル・ムーアが、曲のテーマを歌いだす。
私たちは旅をしてきた
石ころだらけの土地を、石ころだらけの土地を
私たちは旅をしてきた
石ころだらけの土地を、石ころだらけの土地を
スプリングスティーンは、この歌の語り部としての役割を担う。その声は生身のものであり、死者のものでもある。ゴスペルの影響を色濃く受けた曲は、まるで祈りのよう。穏やかさと痛みが交錯していく。石ころだらけの厳しい旅路は、脈々とつづく人類の歩みだ。
羊の群れを世話しろ、迷い出ないように
最後の審判の日に
どんな奉仕をしたかが問われるだろう
広い川を渡る前に
俺達の手についた血は2倍になっているだろう
起きろ、羊飼いよ、起きろ
羊の群れは丘から遠くへと迷い出た
星は消え、空は静か
陽が昇り、新しい1日が始まる
ここでいう羊飼いとは、権力を握った者達のことだろう。羊は彼らに翻弄される僕らのことだ。自分がなにをしてきたかは、最後の日に必ず問われることになる。長い旅に終わりはなく、これからもつづいていく。星の輝きは、朝の光に変わり、また新しい1日が始まる。
ミッシェル・ムーアのラップが、苦しい心情を吐露する。スプリングスティーンが同意の意味を込めて声を上げる。
あなたは眠ろうとするも眠れない
寝返りをうつばかりで、まるで底が抜けたかのよう
かつて信じていたことが信じられなくなり
疑いばかりが頭を満たす
あなたは祈る、助けを求めて
でも沈黙以外、なんの反応も得られない
夜が明けて、あなたは目覚める
でも、そこには誰もいない
それでも、新しい1日は始まる。暗い夜が明けると、僕らは起き出して、自分の旅をつづけることになる。幾多の者が倒れ、再び歩きだしたこの道を、これまでもそうしてきたように、これからも旅していく。そんな僕らを朝陽が照らす。新しい1日がくり返される。
新しい1日が始まる
新しい1日が始まる
新しい1日が始まる
この曲で、アルバムはいよいよ夜明けを迎える。人々が動きだし、周囲がざわめきだす。遠くで汽車の音が聞こえる。今まさに、新しい1日が始まろうとしているのだ。
MIYAI