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Sandfish Records Diary

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シニガミの帰還

藤沢駅の南口を下りて、少し歩いたところに
「シニガミ通り」と呼ばれる道がある。
その一種独特な雰囲気と、
人通りの少なさから、
ここには死神が住み着いていると言われているのは、
多くの人々が知るところだ。
しかし、死神が一体どこからやってきたのかを知る者は、
ほとんどいない。
今夜は少しだけその話をしようと思う。
そう、死神は北からやってきたのだ。

ロイターの調査によれば、
死神が北から温暖な南へ向かうことは、
まずあり得ないのだという。
なぜなのかは、わからないが、
とにかく、死神というのは、
生まれつきそういう性質らしいのだ。

そんな死神がなぜ南へ向ったのか?
そこには北の町が抱えている、ある事情が存在する。
古くは江戸の昔…、と話せば長くなるが、
要約すると、つまり、
あまりに人通りが少な過ぎたのだ。
人がいないということは、死人も出ないということだ。
死神とて人ゴミを好むものではなかったが、
このままでは、死を司る神としての存在意義さえ
失われてしまう。
そこで、死神は仕方なく重い腰を上げ、
死神としての習性に逆らい、
北から人々が集う南へと向ったのだ。
そして、一番静かな通りを選んで、
そこをねぐらとした。
長い話を短くすると、まぁ、そんなところだ。

あれからどれくらいの月日がたったのだろう。
今宵、その死神が北に帰ってくるという。
なぜ今になって、死神はそんな気になったのか。
昨今の不況で、南にも十分な人がいなくなったからか?
はたまた、ねぐらにしている通りの
スペイン酒場から聞こえてくる
騒々しいパンク・バンドの演奏に耐えきれなくなったからか?
その真意を知る者は誰もいない。
しかし、これだけは間違いないと断言しよう。
今宵、死神は北に帰ってくるのだ。

だから、僕らは備えて待つ。
たっぷりの酒と音楽で、死神の帰還を祝う。
DJはロックン・ロール・レコードをまわし、
南からのパンク・バンドがやかましい音を鳴らす。
洒落た音を奏でるコンボ、アコーディオンの調べが、
死神にいっときの休息を与える。
そして、北のソウル・バンドの熱いシャウトが、
かつての北の繁栄を、死神に思い出させるだろう。
締めくくりは、
エレキ・ギターを持ったひとりの男。
暗闇に閃光が走り、スパークする。

誰もシラけてなんかいられない。
なぜって、これはただパーティーじゃないのだから。
ずっと僕らと一緒にいて、
僕らを見守り、きっとこれからもそばにいてくれるであろう、
神様の帰還を祝う夜なのだから。

(2012.11.25 「北のシニガミ祭り」@Bar Cane'sにて朗読)
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by sandfish2007 | 2012-11-26 12:04 | diary | Comments(0)
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