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Sandfish Records Diary

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4522敗の記憶

 久しぶりに愛に溢れた本を読んだ。村瀬秀信『4522敗の記憶 ~ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史~』。アーセナルを愛したニック・ホーンビィの名著『ぼくのプレミア・ライフ』をも凌駕するベイスターズへのねじきれるような愛情と情熱は、コルトレーン風に言えば、まさに至上の愛である。

 この本の特色は、なによりも愛した対象がベイスターズだったところに(結局)尽きる。プロ野球12球団で最多の負け数(この本が執筆されたときで4522敗。現在も記録更新中)を誇り、38年に1回しか優勝できないチーム。つまり、このチームのファンになると、球場に足を運んでも、テレビをつけても、たいていの場合は応援しているチームの負け試合を観ることになる。この本は、そんなチームを愛さずにはいられなかった男の心に降り積もった澱と、背負ってしまった業と、それらを軽く上回ってしまうほどの愛情の物語だ。

 おそらく、この著者は野球ファンである前にベイスターズのファンなのだろう。ちょうど僕が音楽ファンである前に、ビートルズとブルース・スプリングスティーンのファンであるのと同じように。つまるところ、僕らは稲妻に打たれたのだ。その瞬間、目の前に光輝く道が現れ、どこまでもつづいているように思えた。ただ、違っていたのは、僕を貫いた稲妻はビートルズだったけど、著者の場合はベイスターズだったと。つまりは、そういうことなのだろう。

 僕がベイスターズを応援するようになったのは、今から5年ほど前になる。幼少の頃から20代の終わりまでは巨人ファンだった。しかし、金にものを言わせて大物選手を獲得していくやり方に嫌気がさして、応援するのをやめた。それから10年は特に贔屓のチームもなく、野球をかつてのような熱をもって観戦することもなくなった。応援してるチームがないと、観ていていまひとつ張り合いがなかったのだ。

 そんな僕が、とあるご縁をきっかけに、ベイスターズを応援するようになった。テレビで試合中継があれば観るのだけど、正直に言えば、僕は愕然とした。ここぞというときに一番やってはいけない失策を、これでもかというくらいやってくれるのだ。「これはプロ野球なのか?」と、やり場のないもやもやとした気持ちが胸に残った。一番驚いたのは、そんな珍プレーをした選手が、次の試合にも何事もなかったかのように出ていることだった。「巨人だったら選手生命終わってるぞ」と思わずにはいられなかったし、とても勝てるとは思えない試合内容に、「僕はこのチームを一体どうやって応援すればいいのだろう?」と途方に暮れた。観てるのがつらくてテレビを消したこともよくあった。ちょうどこの頃は球団史上でもかなりの暗黒時代で、毎年100敗に迫る勢いの負け数、勝率はチーム打率よりも低い有様で、最下位は揺るぎない定位置だった。かつて応援していた巨人とは、あらゆる面で比べようもなかったわけで、僕のこの気持ちもどうかご容赦願いたい。

 しかし、馴れとは恐ろしいもので、しつこく試合を観戦し、選手の名前を覚え、それぞれの特徴がわかってくると、次第に親近感が湧いてきた。たまに飛び出すファイン・プレーに拍手喝采し、「試合には負けたけど、今日はいいところもあったなぁ」と、満足はしていないのだけど、それなりに楽しめるようになった。そして、気がついてみれば、0対8のようなスコアでも途中でテレビを消すことはなくなり、「頼むぞ、金城!せめて一矢報いてくれ!」と祈るようになった。今はチームも長かった暗黒時代から徐々に抜け出しつつある(ように見える)。選手たちもがんばっているし、半分くらいは勝つようになったから、今年のペナント・レースはとても楽しい。昨日と一昨日は1点も取れなかったけど、それでも楽しい。暗黒時代に応援した経験というのは誇りとなり、こういうときに生きてくる。それはちょうど、『ヒューマン・タッチ』と『ラッキー・タウン』の2枚がリリースされた頃、『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』のときはあれだけいたファンが潮が引くようにいなくなっても、ひとりで熱心にブルース・スプリングスティーンを聴きつづけていたあの頃を思い出す。あのとき僕は鍛えられた。あれはあれでよかったのだ。

 この本が素晴らしいのは、おそらく読めば多くの人がベイスターズに好感をもち、場合によっては応援したくなるだろうと思えるところだ。著者は、この本を執筆するにあたり、球団関係者から膨大な量の取材を行っている。きっと知りたくもない話もあっただろう。そうした話しも真摯に受け止め、自分なりに解釈し、マイナス材料(これがいっぱいあるのだ)さえもプラスに変換して、チームの魅力として昇華させている。そこに嘘など微塵もない。なぜなら、著者曰く、チームの歴史とは「人の思いの積み重ね」だからだ。負けに負け、暗く長いトンネルをさまよいながらも、嫌いになれない。愚痴をこぼしながらも、応援せずにはいられない。稲妻に打たれるとはそういうことだ。ひとつのチームを深く愛するとは、こういうことなのだ。

 巻末を飾る写真が泣かせる。いい大人が徒競走をしている。嬉しそうに先頭でテープを切る男。その下にはこんなキャプションがついている。「オフシーズンの運動会にて。屋鋪要、松本匡史を抑え、1着に」。大洋が巨人に勝ったのだ。やった!徒競走だけど。

 MIYAI

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by sandfish2007 | 2014-09-07 08:11 | diary | Comments(0)
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