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Sandfish Records Diary

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You Never Give Me Your Money

 まだどうにか20代だった頃、親しかった友人とよく自分たちの将来について話をした。僕らはちょうど最初の仕事を辞めた(あるいは辞めようとしていた)時期で、顔を合わせると「で、これからどうするよ?」といった話題がよく出た。あるとき友人が「結局、なにをしたいかというよりは、幸せになりたいんだよ」と言った。それは僕もよく思っていたことだった。幸せな場所に辿り着くためには、一体なにをしたらいいのだろうと。

 ピーター・ドゲット著の『You Never Give Me Your Money(邦題;ビートルズ解散の真実)』を読んで僕が思い出したのは、そんな友人との会話だった。この本は、著者のドゲットがビートルズへの愛情と評論家としての技量を駆使して、ゴシップ臭を精一杯押さえ込んだ説得力ある長編ドキュメンタリーだ。彼が記したのは、ビートルズの音楽や伝説となったエピソードではなく、主にお金にまつわるコントロール不能なまでの痛々しい現実だった。その物語はビートルズが自分達の会社であるアップルを設立した1968年から、この本が刊行された2009年まで綴られている(そして、その物語は今もつづいている)。

 たくさんの知りたくない(知るべきでない)事実が、膨大な取材と知識によって明らかにされていく。そういう意味では、(この力作にこういう言い方をするのは少々気が引けるが)けっして万人向きの本ではなく、もうどう転んでもビートルズの4人を嫌いになりようのない人向きの本だと思う。しかし、読み終えた後にビートルズの、そして4人のソロ作品を聴くと、こんなにも精神を疲弊させる現実に自由を絡み取られていたにも関わらず、どうして音楽はこれほど生命力に溢れているのだろうと、その打ち寄せてくる希望と可能性の波に深く感動してしまうのだ。それこそが、ビートルズをビートルズたらしめ、ジョンとポールとジョージとリンゴをビートルたらしめている真実だった。彼らの音楽はどんなに醜悪な現実も軽々と飛び越えてしまうのだ。

 しかし、本の最後のページを読み終えたとき、僕は思わずにはいられなかった。「4人は幸せだったのだろうか?」と。どんなに巨大な名声や報酬を与えられたとしても、僕ならご遠慮したい。今のままの方がずっと幸せだ。そして、世界中の人達に幸せを与えてきた4人が、なぜこのような惨めな思いをしなければならなかったのだろうと、僕は何度も本を途中で閉じては天井を見上げることになった。押さえきれないほどのエゴはあったにせよ、彼らだって幸せになりたいと願っていたはずだ。誰だってそうだろう。

 MIYAI
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by sandfish2007 | 2015-02-19 09:46 | diary | Comments(0)
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