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Sandfish Records Diary

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ロケットの打ち上げ

今夜、ロケットが打ち上がる。
たったひとりを乗せて。
僕らはロケットの周りを取り囲むように、
車座になって座り、
打ち上げの瞬間を見届けようとしている。
勝手ながら、そんなイメージ。

roquette
フランス語で綴られたロケットは、
同時にデリでもあった。
僕らはデリであるロケットに通った。
出入りは自由。
いつもマスターの光太郎くんが、
シラフな僕らを出迎え、
シラフでなくなった僕らを見送った。
そんなことの繰り返しが、
いつしか僕らの生活の一部となっていった。

四季が巡るように、
ロケットにも様々な季節が訪れた。
足元がふわふわと浮き立つような希望の春、
パンク・ロックのような熱い夏、
収穫を祝うかのような実りある秋、
そして、厳しい冬の寒さを耐え忍ぶような
長い裁判もあった。
でも、光太郎くんは、
いつの季節も普段と変わらない顔で、
僕らのことを迎えてくれた。
だから、僕らも安心して足を運ぶことができた。
まず、そのことに感謝の気持ちを捧げたい。

ロケットには力があり、多くの人を惹きつけた。
ここに来れば、心に温かな灯がともり、
退屈な毎日がいくらかましなものになった気がした。
居合わせた誰かのおかしな話に笑い、
酒に酔い、
光太郎くんの作る料理を食べたくて、
僕らはロケットに通ったのだ。

今夜、そのロケットが飛び立つ。
僕らを残して。たったひとりで。

店の閉店とはなにか?
それはひとつの小さな世界の終焉でもある。
僕はこの店でたくさんの人に会った。
その人達に会えたのは、たまたまであり、
偶然に過ぎなかったが、
その偶然を意味のあるものにしたのが、
この店だった。
もし他の場所で出会っていたら、
僕らはあんな風に親しく言葉を交わせたのだろうか?
屈託ない顔をして笑い合えたのだろうか?
再会を喜び合えたのだろうか?
僕にはそうは思えない。

「ロケット・デリ」という店が、
僕らに魔法をかけ、
気ままに通り過ぎる僕らを繋ぎ止め、
出会わせ、友情という名のもとに、
この小さな世界を作り出したのだ。
すべての出来事は、
この出入り自由なロケットの中で起きたのだ。
今夜、その扉が閉まろうとしている。
僕らはもう出入りできなくなる。
僕らの小さな世界も終わろうとしている。

だから、今夜はひどく淋しい。
心の一部が引き裂かれるような思いさえする。
でも、ここでの楽しかった時間は、
今この瞬間も、僕の心に温かな灯をともしていて、
これからもつづいていくであろう退屈な毎日を、
いくらかましなものにしてくれるような気がするのだ。

今夜、ロケットが打ち上がる予定。
光太郎くんをひとり乗せて飛び立つ予定。
僕らは車座になって座り、その周りを取り囲んでいる。
心変わりをさせるためではなく、
グッドラックを伝えるために。
勝手ながら、そんなイメージ。

そして、イメージはつづく。

打ち上げの瞬間。カウントが始まる。
そして、点火。爆音。
パンク・ロックが闇夜を切り裂き、
バッキャローの声と共に、
ロケットは夜空へと打ち上がる。
そして大爆発。
強い光が僕らを包み込む。
再び夜の闇が訪れると、
空からはロケットの欠片が、
星屑のようにきらきらと輝きながら、
僕らの上に降り注ぐのだ。
そして、ひとりひとりの胸に仕舞われるのだ。
いつの日か、どこか知らない別の場所で、
再び僕らの小さな世界が築かれることを願って。
それまでは大切に仕舞っておくのだ。

明日になれば、死神通りは人まばら。
おそらく、これから先も人まばら。
でも、かつてここに何があったのかを、
僕らは知っている。
よく知っている。

(2016.11.3 「ロケット・デリ」閉店にて朗読)
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by sandfish2007 | 2016-11-04 07:23 | diary | Comments(0)
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