ビートルズがアップルの屋上でライヴをしたのは、1969年1月30日。あれから今年で50年がたった。そんな記念すべき日に発売された新刊が『ルーフトップ・コンサートのビートルズ』だ。原題は『The Beatles on the Roof』。
この本には、1969年1月というたった1ヶ月の出来事しか書かれていない。それで1冊の本を書き上げたことに、まず驚かされる。著者のトニー・バレルは、当時まだ半ズボンをはいた小学生のビートルズ・ファンで、平日の昼間に予告なしで行われたライヴを観ることは不可能だった。しかし、そのときに感じた悔しさこそが、この本のすべての原動力となっている。
いつしか彼は、毎年1月30日になると、サヴィルロウにあるアップルビルを訪れるようになる。そして、屋上を見上げ、50年前に4人の若者が演奏したときの息吹を感じるのだという。
彼は取り憑かれたのだろうか?いや、そうじゃない。これは情熱だ。つまり、この本はルーフトップ・コンサートに魅せられたひとりの音楽ファンの人生記でもあるのだ。彼自身のことはなにも書かれていない。しかし、行間から伝わってくるのは、著者の押さえることのできない心のときめきだ。それこそがこの本を魅力的なものにしているのだろう。
ビートルズのことだけでなく、同時進行で起きていた出来事にも触れているのがいい。そのおかげで、物語は立体感を持ち、本から飛び出した登場人物たちが生き生きと躍動するのだ。例えば、ビートルズが屋上でライヴをやった日の夜、少し離れた場所にあるライヴハウス「マーキー」に出演していたのがデヴィッド・ボウイのバンドだったなんて、それだけで心が踊るではないか。
これはものすごく面白い本だ。読者を選ぶかもしれないが、ハマればページを捲る手を止められないだろう。僕がそうだったように。読み終わった今も、僕の心は50年前のロンドンにある。目を閉じると「ゲットバック」や「ドント・レット・ミー・ダウン」が聞こえてくる。こんな気持ちになれて幸せだ。