僕がもっともよくヴァン・モリソンを聴いていたのは、今から10〜15年くらい前だと思う。24歳のときに『Tupelo Honey』を買って、そのあまりの素晴らしさに愕然としたのを、今でもはっきりと覚えている。それからせっせとレコードを買い揃えていった。名盤が何枚かあったし、愛すべき作品もいくつかあった。そして、つまらない作品はひとつもなかった。
28歳の夏、久しぶりにブライアン・ウィルソンの新作がリリースされ、僕はそればかりを繰り返し聴いていた。ヴァンの未発表曲を集めた『The Philosopher's Stone』が発売されたのも、ちょうどその頃だった。すぐに気に入ったけれど、あまり聴き込んだ覚えはない。むしろ、レコードでオリジナル・アルバムを聴いていたんだと思う。
昨夜、久しぶりにひっぱり出して聴いて、びっくりした。茫然と立ち尽くしてしまうほど素晴らしかった。ヴァン・モリソン特有の、心の奥にある深い部分を揺さぶられるような感動が、そこにはあった。人知れず大地を潤す地下水のように、ヴァンの歌は、ただひたすらみずみずしかった。
靄がかかり、怠惰な気分
春を待っている
転がるように進んで行く
歌に耳を傾ける
メロディを聴く
それだけでいいんだ
君のためにそうするつもりだ
もし君が僕のためにそうしてくれたら嬉しい
こんな歌がいくつも入っている。トラッド色漂う美しい歌がいくつも。こんな歌を前にしたら、なにもできない。ただ寄り添うことしかできない。ひょっとすると、歌の方が僕に寄り添ってくれたのかもしれない。
外では雨が降っている。地面を濡らしている。そのずっと下の方では、きっと今も、地下水がこんこんと湧き出し、流れているのだと思う。
MIYAI