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Sandfish Records Diary

sandfish.exblog.jp

カテゴリ:裏ライナー( 3 )

高速バスの旅

 先日、高速バスに乗ってみて、なかなか快適なもんだなと思った。僕が乗ったのは座席が横3列でスペースもゆったりしていたし、膝掛けとスリッパも用意されていた。レバーをひくと足のせが稼働し、背もたれを倒すことができた。大阪に着くまでの間、天気はめまぐるしく変わった。激しい雨が窓を打ったかと思えば、きれいな虹のアーチがあらわれ、青空をたくさんの雲が足早に流れていった。僕はビートルズやポールの音楽を聴いたり、伊坂幸太郎の小説を読んだり、たまにうとうとしたりしながら、片道8時間の道のりを退屈することなく過ごした。立ち寄ったサービス・エリアもそれぞれに趣向をこらしてて、日頃車に乗らない僕には新鮮だった。

 車窓についた雨粒は、まるでおたまじゃくしの大群のようだった。整然とし、同じスピードで後方へ移動し、最後は置き去りにされて宙空へと消えていった。斜め前のおじさんが「柔道は人間教育」という本を読んでいた。隣りの若者は顔に「少年サンデー」をのせて寝ていた。誰もが誰とも口をきこうとはしなかった。車内は最初から最後まで無言だった(少なくとも僕が音楽を聴いていない間はそうだった)。

 そんな風にして、僕は無事大阪へ辿り着くことができた。ポールのライヴを楽しみ、深夜の高速バスで家に帰り、その夜にレコードを抱えて地元のイベントに参加した。

 今朝はアルバイトがいつもより2時間遅くて、久しぶりにゆとりのある朝を迎えている。ここ数日の冷え込みで、台所から見える富士山も随分と冬らしくなっていた。そうか、もうすぐ冬なのか。どうりで寒いわけだ。

 MIYAI
by sandfish2007 | 2013-11-14 08:03 | 裏ライナー | Comments(0)

裏ライナー:Eisa Davis『Something Else』

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 サンドフィッシュ・レコードがこれまでリリースしてきた作品の中で、もっともコンスタントに売れつづけているのは、イーサ・デイヴィスの『Something Else』だ。少し低めの落ち着いたヴォーカルに、ソウルやジャズのエッセンスを含んだセンスのいい演奏。耳に優しく、心地よく響く彼女の音楽の間口は広い。それでいて、いちいちひっかかるというか、さらりと流れていってくれないところもあったりして、そこが彼女の音楽の奥深さなんだと、僕は思っている。イーサの歌を聴いていると、僕はときにジョニ・ミッチェルやローラ・ニーロに共通する空気を感じる。それはきっと、彼女が紡ぐ音のひとつひとつに、女性特有の情念のようなものが、静かだけれど確実に脈打っているからだと思う。こんなに優しく、澄んだ湖水のように穏やかなのに、底が見えない。イーサ・デイヴィスの『Something Else』とは、そういうアルバムなのだと思う。

 ほとんどのCDショップでは、まともに展開してもらえなかった。イーサのようなけっして派手じゃない無名アーティストの曲を、お店の人にじっくり聴いてもらうことは、僕が考えていたよりもずっと難しくなっていた。思えば、随分と多くの店で素っ気ない対応をされたものである。但し、一部の店舗やセレクト・ショップ等は、彼女の音楽性の高さに気づいてくれて、そういうお店ではよく売れた。そして、地元のバーに置いてもらったところ、これが予想を遥かに超える反響があった。カウンターに座っている全員がこのアルバムを持っていたこともあったし、「今年聴いたアルバムの中で一番よかった」と言ってくれた人もひとりやふたりじゃなかった。そうしたお客さんの反応を、直接見たり聞いたりできたのは、すごく面白かったし、嬉しかった。

 僕はこれまでずっと、人とのつながりの中で音楽を聴いてきた。先輩や友人からすすめられた音楽を聴き、僕も彼らに自分の好きな音楽をすすめた。そうしてることが、とにかく楽しかった。
 『Something Else』を通して、僕は音楽を「手渡していく」ことの素晴らしさを、改めて知ったように思う。CDショップの店員さんやバーのマスターに薦められて、実際に聴いてみて、ほんとにいいなぁと思って、『Something Else』を買ってくれた人達。そうしたやりとりは、1枚のCDを取り巻く想い出となり、その音楽をより魅力的なものにしてくれる。人生をほんの少し豊かにもしてくれる。僕がやりたいのは、そういうことなのかもしれないなぁと思ったりした。そして、例え時間がかかったとしても、少しづつでも広がっていくのなら、それはきっと本物の音楽なのだろうと思った。

 また、バーでこのアルバムを買った人達の多くは、今も音楽ファンでありながら、CDショップには足を運ばなくなった人達だった。このことは、僕にいろんなことを教えてくれた。僕がリリースしたいと思っている音楽がどういうもので、どういう人達に求められていて、どこに置かれるべきものなのか?僕はそんなことも、次第に考えるようになっていった。

 発売してからそろそろ11ヶ月がたつけれど、『Something Else』は、今もゆっくりとだけど、売れつづけている。で、きっとこれからも売れつづけていくのだと思う。そう思えることが、僕にはひどく嬉しい。

 ところで、イーサの伯母の名はアンジェラ・デイヴィスという。70年代のはじめに不当逮捕され、「FREE ANGELA」というスローガンのもと、黒人解放運動の象徴となったこの女性に、当時ジョン・レノンとオノ・ヨーコは“Angela”という歌を捧げている(『Some Time in New York City』に収録)。僕はジョンのファンなので、こういうことを知ると、なんだか勇気づけられたりする。しんどくても自分が正しいと思ったことはやってこうと思えるから。

 MIYAI

 ※ 試聴はこちら→link

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by sandfish2007 | 2008-10-29 10:27 | 裏ライナー | Comments(0)

裏ライナー:Scott Fisher & 1a.m.Approach『Step into the Future』

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 自分のレーベルをスタートするにあたって、僕がさがしたのはピアノ・マンだった。それまで勤めていたインディーズ・レーベルでは、アコースティック・ギターを基調とした作品が多かったので、ちょっと目先を変えたいという気持ちもあったのだろう。けれど、それ以上に僕は、美しいメロディがもつ普遍性を信じていて、その魅力を際立たせるには、ピアノがもつリリカルな響きが大きな意味をもつと感じていた。僕がリリースしたかったのは、たくさんの人の耳をとらえ、長く聴いてもらえるクォリティをもった作品だった。そのとっかかりとして、美しいメロディを紡ぎ出すピアノ系シンガーソングライターの伝統に、あやかろうとしたのかもしれない。

 うまく言えないのだけど、僕は、ビリー・ジョエルやベン・フォールズを少しアングラにしたようなアーティストを、頭に思い浮かべていた。ピアノマンの伝統と同時代性が、くすぶった空気の中で共存していること。表現の手段がピュアであること。聴こえてくる「決断」が誠実であること、等々。その頃にちょうど出てきていたピアノ・エモ系のアーティストには、あまり興味がなかった。周囲の流れに同調してもしょうがないと思っていたし、僕が求めたのは、若さや疾走感よりもむしろ、その作品が信頼するに足る「なにか」を持っているかどうかということだった。長く聴かれつづけるためには、そうした深みがきっと必要なはずだと、僕は頑なに信じていた。

 “Step into the Future”を初めて聴いたのは、音さがしを始めて、まだそれほど時間がたっていない頃だった。聴いた瞬間、すごくぴったりくるものがあったし、この曲には、聴く者の耳を一瞬にしてとらえる力があると感じた。まずメロディが良かったし、静かな熱を帯びたヴォーカルにも説得力があった。クラシカルなピアノ、自由闊達なドラムには、ジャズのクールなエッセンスが息づいていた。アルバムを取り寄せてみたところ、どの曲にも背筋をぴんと伸ばしたような芯の強さを感じられた。とりわけ、“Atmosphere”での後半、感情を押さえられなくなったバンドが、ひとつの塊となって、高みへ昇っていく様は、本当に美しかった。

 最初のリリースということもあり、いろいろ偉そうなことは言っても、僕はたくさんの希望と不安を胸に、この作品を聴いていた。CDショップの試聴機だとどんな風に聴かれるのだろうと、1曲1曲をザッピングするように、さわりだけ聴いてみたりした。でも、だんだんわけがわからなくなっていって、結局、そんなことをしてる自分が馬鹿らしくなった。で、「大切なのはさ、この作品に繰り返し聴くだけの価値があるかってことだろ」と、最初の考えに立ち返ってったわけでね。

 そんな気持ちで、改めて聴いてみれば、なんてことはなかった。だって、『Step into the Future』には、長く聴かれつづけるだけの深みが、ちゃんとあったのだから。

 契約における英語でのやりとりなど、上手にできなかったこともたくさんあった。でも、その分いろんなことを学びながら、僕はこのアルバムをリリースしたんだと思う。あれから1年がたって、今ではいろんな人から「この前、服を買いに行ったら、スコット・フィッシャーが流れてたよ」なんて声をかけてもらえるようになった。「そんなのたいしたことじゃないじゃん」って思われるかもしれないけど、やっぱり僕は、スコットの音楽が少しづつでも着実に広がっていってるんだなぁと思えて嬉しい。ま、言い換えれば、それだけ時間がかかるってことなわけで(もう1年もたっちゃったわけで)、だからこそ、きちん残る音楽をリリースしていくことが大切なんだと、改めて思ったりする。

 スコット・フィッシャー&1.a.m.アプローチ『Step into the Future』。このアルバムをリリースして、僕は、仕事で音楽と関わりながら生きていくためのいろんなことを、再認識し、実感し、覚悟した。きっとこの感覚を、僕は、一生忘れないと思う。まるで踏み絵のように、これからもいろんな場面で、思い出すことだろう。そんな気がする。

 MIYAI

 ※ 試聴はこちら→link
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by sandfish2007 | 2008-10-27 12:43 | 裏ライナー | Comments(0)